皆さんは現在どのモジュールの”エキスパート”でしょうか?フリーランスとして独立する際、強みとなる得意モジュールは必ず欲しいところです。では、どのSAPモジュールからマスターすべきか?筆者の経験に基づき解説します!「マスターする」とは?「マスターできている」状態は、下記の2つをクリアしていることを想定しています。特定のモジュールについて、構想策定や要件定義などのいわゆる上流フェーズから、移行や運用保守といった下流フェーズまで全フェーズ一通り経験していること (Non-system)SAPコンフィグレーションを十分に理解できており、新しい環境でもある程度自分でセットアップし、マスターデータの登録も行い、デモが流せるレベルに到達していること (System)非システム視点では、上流から下流までのフェーズをほぼ一通り経験していることが必須です。要件定義で決めたことが後続フェーズにどのような影響を与えるのか?開発フェーズできちんと要件を汲み取れているのか?こうしたプロジェクト全体を見渡す力をつける必要があります。システム面では、マスタのセットアップからトランザクションの打ち込み、そしてお金の流れが最終的にあっているかまでを一通り自分の得意モジュールでデモンストレーションできるようになっていれば良いです。デモを流すことはクライアント先に営業する時のみならず、下流のインテグレーションテストでも必要になってきます。「クライアントが要求している〇〇を達成するには、これくらいのコンフィグレーション変更が必要で、あのプログラムのここを改修しなければいけなくて、××と△△のモジュールに影響が出るだろうからインテグレーションテストもやらなければいけない・・・工数はこれくらいかな?」というふうに、業務をシステムに落とし込んだ時に必要な工数をイメージできるようになれば、もうあなたはマスターできています!これからマスターすべきモジュールは何か、初心者用と経験者用でそれぞれ解説していきます!初心者の場合:どのモジュールを軸にする?これから1つ目のモジュールをマスターしたいと考えている方のために解説します。基本的に、1つ目のモジュールが今後の自分の「軸」となります。とはいっても、そこから守備範囲を広げていけば良いのでどのモジュールから始めても大抵は問題ありません。実際、初期研修終了後のアサイン先やプロジェクトの配属によって自分がやらなければいけないモジュールが決まってくるので、マスターしたいモジュールを選べる人は少ないかもしれません。1つ目のモジュールを選択できるのであれば、ぜひ、下記のアドバイスを参考にしてください!自分のバックグラウンドや興味をもとに決める基本的には物流系のモジュールから始めるか、財務系のモジュールから始めるか、で二手に大きく別れると思います。これから1つ目のモジュールをマスターしたいのであれば、「面白い」や「楽しい」の気持ちを優先させることが重要です。もし自分が興味ある分野が1つでもあるのであれば、そちらのモジュールを学びましょう。もしくは、自分が今まで経験してきたことや大学で専攻したことに近いモジュールを選ぶのも良いスタートとなります。例えば、もともと経済学部であったり、簿記3級や2級に挑戦した経験があったりする人は、財務会計領域のFIモジュールを担当すると、学ぶ速度や意欲も高くなります。同様に、ものづくりに元々興味ある人や、工場見学が楽しいと感じる人は、生産計画や製造管理のPPモジュールが合っているかもしれません。バイトで棚卸作業をやったことがある人は、ロジスティックスに関わるLOモジュールあたりを興味深いと感じるかもしれません。SAPを学ぶ際、システムを触りながら実際の業務とどう結びつくのかをイメージすることが大事なので、興味やバックグラウンド知識をできるだけ活かせられるようにしましょう!よくわからないので無難にスタートするあまりこだわりはないので無難にスタートを切りたい、という方は、下記のモジュールをオススメします。MM (Materials Management, 購買管理/在庫管理)マスタデータを理解するのに一番適しています。在庫管理プロセスに関わるマスタを全て管理するので、必然的に品目マスタについて学ぶことになりますし、在庫管理の肝である在庫ステータスや移動タイプについて詳しくなります。また、発注依頼→購買発注→入庫→請求書照合の一連の購買プロセスを学びます。特に「入庫」プロセスはMMのみならず他のモジュールでも知識を流用できます (SAPのMIGOを使った入庫の仕方、入庫する際に必要なデータ項目、移動タイプの理解など)。SD (Sales and Distribution, 販売管理)受注→出荷→請求といったプロセスをSAPのシステム上で実現するモジュールです。販売管理は一番業務フローが理解しやすいという意味でとっつきやすいかもしれません。実際SDからスタートする人は多いと筆者は感じます。モノが受注されて自社工場で製造完了するまでの日程計画や、どのタイミングで出荷されて資産としてシステムから落ちるかなど、「モノ」と「資産」の関係性や在庫の動きについて理解を深めることができます。FI (Financial Accounting, 財務会計)SDやMMと同じくらいスタートモジュールとして人気なのがFI (財務会計) です。FIは非常に範囲が広いモジュールであり、サブモジュールがいくつか存在します。メインはFI-GL (総勘定元帳), FI-AR (債権管理), FI-AP (債務管理), FI-AA (固定資産会計) の4つです (その他オプショナルなサブモジュールも存在します)。販売や購買の実績はこのモジュールで集約されてきます。SAPは会計システムとしてスタートしており、お金の流れという意味でもこのFIモジュールがSAP ERPの「軸」となります。初心者が避けるべきモジュールは?「このモジュールから初めてはダメ」といったことはありませんが、スタート地点として最善ではないモジュールもあります。ビジネスフローの全体図を把握したい場合、業務範囲が狭いモジュールはあまり適していません。例えばQM (品質管理) やWM (倉庫管理) といったモジュールは、一つの業務領域に特化しており、設定やマスターデータの仕組みも細かく、奥深いです。よって、そもそもSAPの基本的なマスタデータの仕組みやビジネスフローを理解していないといけません。例えば、「入庫のタイミングで品質検査を行いたい」とクライアントから要求があった場合、様々な入庫パターンが大まかに頭に浮かべられるようではないとまともに要件定義が行えませんし、クライアントの指す「入庫」とSAPでの「入庫」の一致不一致も理解している必要があります。また、範囲が狭いモジュールはある程度自己完結しているため、他のモジュールと被るビジネスプロセスが少なく、クロス課題が発生することも少ないです。そのため、一つのビジネスの全体像をつかみたいのであれば、他のモジュールから始めた方が得策です。同じく初めてのモジュールとしてあまり適していないのは、導入頻度が少ないいわゆるマイナーモジュールです。例えば、PS (Project System, プロジェクト管理) やPM (Plant Maintenance, プラント保全) は、必ずしも全てのプロジェクトで導入されるわけではありません。導入頻度が少ないため、そもそも知見を持っている人がいなくて教育面で苦労したり、参考にできる事例が少なかったりするという欠点があります。オプショナル要素が強いゆえ、これらのモジュールでは求められるSAP知識が高く、初心者には少し厳しいかもしれません。しかし、逆に言えば導入できる人材が少ないので一旦マスターしてしまえば引く手数多にはなります!(これはマイナーモジュール全てに言えることですが)以上、色々と初心者には向かないモジュールをリストアップしましたが、これらのモジュールでスタートすることになっても、その後可動領域を広めていけばいいので心配無用です!王道から外れたルートにはなってしまいますが、逆に言えば、マスターしている人が少ないモジュールであるため、引く手数多にはなります!経験者の場合:2つ目をマスターするとしたら?すでに一つ自分の得意分野と言えるモジュールがあり、2つ目のモジュールをマスターしたいと考えている人もいるでしょう。2つ目をマスターするのであれば、計画的に選びたいものです。3つの視点から選び方を解説します。 業務プロセス的に隣接するモジュール業務プロセス上、自分が得意とするモジュールと隣接するモジュールを選ぶと良いでしょう。例えば、SDモジュールが得意なのであれば、在庫管理のMMや財務会計のFIに挑戦してみたり、PPの知見があるのであれば、原価管理のCOに挑戦してみたりすることです。業務の流れ的に隣り合わせなので、相互のモジュール理解が深まります。Procure to payや Order to cashの流れがより理解できるようになるでしょう。また、業務プロセス上隣接しているモジュールは、領域を跨ぐ「クロス課題」が発生することが必然と多いです。例えば、ロット管理やトレーサビリティの課題はなんと、SD, LO, PP, MMの4つのモジュールを跨ぎます。過去自分が担当したモジュールと現在自分が担当しているモジュール双方を理解しているため、このようなクロス課題で活躍できることは間違いなしです。筆者のおすすめは両方マスターしている人が少ないPPとCOです。製造と原価管理をマスターしてしまえば、工場におけるモノの流れとお金の流れの両方が理解できていることになるので、強力なスキルセットになります。逆にあまりおすすめできない組み合わせはSDとPPといった接点が少ない組み合わせです。業務プロセス上隣接しているように見えるかもしれませんが、実際の接点は他の組み合わせより少ないです。例えば、筆者がPPをマスターした後SDを経験したときは、在庫確認や販売BOM以外でPP知識が直接関わることはあまりないと感じました。業務範囲が狭いモジュール2つ目をマスターするのであれば、業務範囲が狭いモジュールが適していると筆者は考えます。QMやEWM/WMなどは業務範囲が狭いため、比較的早く身につけることができます。また、ある程度SAPに関する知識がある状態でスタートできるため、QMやWMなどの狭い範囲のモジュールであれば、チームリーダーなど上のポジションにチャレンジしやすい傾向があります。筆者はPPモジュールを2年ほどかけてマスターした後、QMモジュールのチームリーダーポジションを担当させてもらえました。PPを一通りマスターしてSAP導入プロジェクトの全体像を持っていたからこそ、初めてではあったものの、QMモジュールのチームリーダーとして課題管理や工数管理をこなせました。今までとは異なる別の角度からSAPに触れる良いチャンスでもあります。例えば、PPモジュールの知識がある状態でQMモジュールを学ぶと、製造工程のみならず、製造プロセスにおける品質検査のことが学べます。それまで意識してこなかった製造中の検査のタイミング、製造入庫のタイミング、そして入庫する際のロット生成の単位を意識するようになります。今まで大枠で捉えていた製造という業務をさらに細分化して見ることができるようになり、新しい視点を育む良い機会となります。さらに、PPモジュールの範囲外である出荷プロセスや購買入庫プロセスにおける品質検査についても学ぶことになり、自分の領域外の業務フローの理解も同時に深めることができます。マイナーモジュールに挑戦するここでいうマイナーモジュールはPSやPMなど、導入事例が少ないモジュールのことを指します。実際これらのモジュールは導入事例が少ないため、導入することになった場合は初心者ではなくSAP経験者が担当することが多いです。2つ目としてマスターするには良いかもしれません。理由は知見者が少ないため、導入経験者は重宝されるからです。導入例が少ないモジュールをマスターすると、周りから評価もされます。ただし、前述の通り、知見者が少ないモジュールであるため一番苦労するポイントは時間と労力だと考えられます。なかなか教えてもらえる上司や先輩がいないと、自分である程度調べて試行錯誤する必要が出てきますし、失敗のリスクも他のモジュールよりは高くなるかもしれません。時間的に余裕がある、または近くに知見者がいるのであれば、挑戦する良い機会でしょう。特定のモジュールではなく、他のことに挑戦する!?特定のモジュールではなく、他のソリューションやツールを身につけることも有意義だと筆者は思います。具体的にはFioriやAribaなどの最近リリースされた設計システム(UX)やソリューションは、知見者は少ないものの、一度身につければ本当に引く手数多になります。筆者はFiori導入の経験があります。FioriはSAP ERPの設計システムであるため、導入するときに全てのモジュールを俯瞰してどの機能がタブレットやスマホで操作できると便利かなどを精査する必要があります。結果的にSAP ERPの全体像を掴めるようになります。他のモジュールでは全てを同時に見渡す機会は少ないため、このような新しい仕組みを導入する経験は貴重です。AribaなどSAP社が買収したソリューションはSAP ERPとは別物なので異なる作りになりますが、SAP ERPと統合しているため、両方の知識があると重宝されるでしょう。マイナーモジュールでも書いた通り、知見者が少ないため試行錯誤で学ぶことになりますが、チャンスがあればぜひ挑戦してほしいことの一つです。最後にフリーランスとして独立したいと考えているのであれば、少なくとも1つ、できれば2つのモジュールをマスターしていた方が良いです。この記事の頭で紹介した通り、何かのモジュールをマスターすることによってSAPプロジェクトの全体像を掴めるようになりますし、システムにおけるマスタの仕組みや業務の流れも理解できるようになります。2つ得意モジュールがあれば、守備範囲も広まり、知識が深まるためベターです。2つマスターしてしまえば、3つ目の新しいモジュールをやることになっても、SAPノウハウやモジュールの身につけ方といった能力を流用して比較的楽に対応できるようになっているはずです。色々とおすすめについて解説しましたが、最終的には自分が興味あるモジュールを選ぶことが大切です!どのモジュールを自分の武器にしても、必ず需要はあるので、自信を持ってスキルアップしましょう。